米国大統領選のカギとなるか、連邦健康保険制度とそのモデルとなったマサチューセッツ州健康保険制度

大統領選を控え、オバマ現大統領とロムニー候補の公開討論会があった。

日本の多くのメディアが 討論会後の世論調査でロムニーの優勢を伝えている。
ロムニーが以前、州知事をしていたマサチューセッツ州の地元をみるかぎり、必ずしも真実を伝えてはいない。
もともと有力な候補をたてていなかった共和党に対し、オバマ優勢を報道していた米国メディアにあって、今回の討論会で両党候補が接戦になったとは盛んに言われている。


   しかしいくらロムニー候補が討論会の戦法を知り尽くし、なおかつ討論するときの態度や素振り、表現方法がいいからといって、中道派や浮動票が彼を擁する共和党に動くだろうか。討論会のパフォーマンスでどちらが長けているかを判断するのが、今回の討論会の目的ではない。討論会を日常的に目にしている米国の投票者が、上辺だけの討論のパーフォンマンスだけに簡単に心が動くとは考えられないのだが。アメリカの選挙民は日本の選挙民よりもっと真剣に政策に耳を傾け、結果や数字を考慮して投票に臨む。 今日も大学生の息子が、18歳になって選挙登録をし、他州の大学へ行っているので(彼の友人には大学のあるところで選挙登録をしているものも多い)不在者投票の手続きをし、初めて挑む選挙に意気盛んに両候補の政治方針を吟味していた。


*しかし確かにNewsWeek 日本語版の冷泉氏のような意見もある
「(略)こうしたTV討論については、通常は「内容」にはそんなに注目がされる
ものではなく、どちらがミスをしたとか、攻撃が効果的か、防戦はできたかというよ
うな、いわば格闘技のような見方をすることになるわけです。TV討論というのは、そ
れ以上でも以下でもないというのが常識的なところでしょう。」これって選挙民を馬鹿にしていないか。TV討論会聴衆者は確かに論者がミスを犯すとおもしろがるし、揶揄もする。しかし話の内容もしっかり聞く。

ここで討論会の終盤に論じられたオバマ大統領率いる民主党懸案の国民健康保険が現在、どのように現行医療制度で、また税制で扱われているだろうか。



国民の保険所持の自由を説き、資本主義を謳歌する米国が社会主義に傾倒しない様に食い止める政策を謳って最初っから反対しているのが共和党であった。本来の健康保険の意味あいを共和党が骨抜きにしてしまった現行の国民健康保険法である。


もともと我がマサチューセッツ州は随分前から、病院単位で高額医療(前述のブログでも説明しているが、一回の根治歯科医療額実費だと10万以上する)を所得額に応じ、メディケードと呼ばれる公的資金の注入を行っていた。さらに州独自の保険制度Mass Healthと呼ばれる制度を確立した。これは個人経営のもの、職があっても雇い主から健康保険を雇用福利が受けられないもの、非雇用者、もしくは雇用されていてもその健康保険料が高すぎるため支払いできないので、所得額に応じた保険医療制度を打ち立てた州の経営する健康保険を申請し、毎年納税時期前後に健康保険の更新手続きをとる。確かに病院やクリニックよってはこの州保険を持っている患者を診ないところもあったため、行ける医療機関は限られていた。が連邦政府の健康保険法が州の今までの制度と掛け合って公的保険を受け入れる医療機関が随分増加した。さらに税制でも、今までは保険保持の有無は個人の自由であったが、今はもし健康保険をかけていると州に納税する際、税金で還付されるようになった。

アメリカでは日本のようにもともと住民票がなく出生証明書、運転免許、パスポートで身分証明が行われている。しかしこの州では、希望すれば公的健康保険を申請するため、さらに家族単位の収入の詳細や家族構成、従軍の有無、さらに学生であれば教育機関からの保険補助があるかどうかなど問われる保険調査票がある意味で、日本の住民表のような役目をし行政のサービスが受けられる。つまり健康保険が助成されている事実が証明されれば、冬期の光熱費の助成、さらに義務教育児童を扶養していれば学校での昼食補助も受けられる。

私たち一家がマサチューセッツに転入したとき、ロムニーが州知事をしていた。なぜ民主党優勢の州で、共和党から知事がでたのか不思議でしょうがなかった。

しかしロムニー元州知事は保守的な考え方の共和党陣営としては珍しく、同性愛者同士の婚姻や人工中絶を支持し、かなり共和党内でもリベラルな姿勢を同州知事時代に取っていた。この健康保険法もそうだった。だから共和党大統領選陣営は今までのガチガチの保守派政策ではだめだと判断したから、共和党保守のなかでも穏健、リベラルなロムニー候補を建てたのだろう。 (新たな事実を友人から聞かされた、「いや実は彼はこれらに賛成の姿勢を示した訳ではない。かれは風見鶏ごとく、いつも意見を替えていた嘘つきだ」とも州民から何度も耳にした)

ところが肝心なロムニー候補は、逆に大統領候補に指名されると、それまでのリベラルな姿勢を一転し、同性愛婚姻や人工中絶の権利、さらに自分が州知事時代に成功していた健康保険法をモデルにした連邦政府健康保険法まで反対の姿勢を取りだす始末。連邦政府が自分が州知事時代に成功をおさめ確立した健康保険法を、ほぼ同じような形で継承した連邦政府のうちたてた健康保険法をオバマケアーと揶揄する始末で、多くの住民は彼を風見鶏どころか、嘘つき呼ばわりしている。

討論会では触れられなかったが、彼には大きな票田モルモン教会がバックにある。最新Time誌には3人の妻と5人の息子、さらに30人以上の孫に囲まれた彼の家族の写真が掲載されている。このモルモン教会は選挙の世界で、大きな力となる。カルフォルニア州の州知事を自ら擁護するほどの団体だから。


さて本題の健康保険だが、
これまでのマサチューセッツ州の健康保険法をモデルとして、連邦健康法案が成立した。するとマ州内ではさらに手続きがとても複雑になった。保険点数を計算する手間、医療機関のコンピューターをすべて更新されられる手間と人力、資力、さらに税制優遇手続きをするための住民にかかる負担も絶大なものになったあと、数ヶ月から1年以上かかって、マ州内の医療機関、州内の公的保険申請センターがようやく軌道に乗り始めた。

しかしこれもやがて連邦政府がまた税制を健康保険法の絡ませて、変更すれば元の木阿弥、さらに諸事情が複雑になる。

例えば、他州の大学にいった子供の扶養をしている親の税制は、その手続きだけでもすごく複雑になっている。
一州であるマサチューセッツ州だけだと何とか機能していた保険制度が、
住民が移動するたびに、連邦政府の保険制度がしっかり整備されていない為に
多大な人力と手間と時間がかかる。それは住民一人一人の負担になり、またその間に病人、ケガ人は救われない。
州に依っては保険制度そのものも、それと連動する税制が整備されていないことが往々にしてある。連邦政府が新健康保険法を打ち立てたが、それを実施するにはそれぞれの州の事情で猶予期間を与えられたからだ。

かく言う私も先日、他州の大学で寮生活を送って救急で運ばれるほどのケガをした息子の医療保険の手続きを12ヶ月かかって、先日すべて解決したばかりである。私たちが救急医療機関に申請したマ州の保険制度、さらに運び込まれた病院のあるニューヨーク州、さらに大学が独自に契約するフロリダ州の保険会社が、統一のソーシャルセキュリティー番号で結ばれておらず、1点でも番号を聞き違えたり、書類のミスがさらに手続きを猥雑にしていく。

現米国連邦政権の民主党がごりおしして通った健康保険制度を、そのモデル制度を持つマ州の元知事が、健康保険制度は国の予算を脅かすとして現大統領を攻撃批判する。これって、レトリックの面だけでも、かなり矛盾するだろう。

どう考えても、どこかおかしい、政治劇の一面だ。確かに政策より、心情的にどちらが好きかが前面に出てしまう討論会もありうるかもしれない、しかしここはじっくり両者のパーフォーマンスでなく話している内容、現状に耳を貸したい。

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